プロローグ


「――MIコンサルティングの松永です、いつもお世話になっております」

 とにかく笑顔で、明るく、快活に。電話の相手に向かって、俺は普段よりワントーン上げた声で語りかけた。

 耳に当てた携帯電話から相手の返事が聞こえてくる。ああ、松永さん、ご連絡ありがとうございます――明るい声だ。感触は悪くない。

「吉沢様、さっそくご入金いただきありがとうございました。……ええ、たしかに百五十万、確認いたしました、はい」

 現金百五十万円が入ったビジネスバッグを一瞥し、俺はさらに目を細めた。これ以上ないほどの愛想を声に詰め込み、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。

「いえいえこちらこそ、いつもありがとうございます。また来月、ご連絡いたしますね。今後ともよろしくお願いいたします。はい、はい、それでは」

 電話を切った瞬間、俺の顔から笑みがすっと消えた。無表情のまま、手に持っているプリペイド式の携帯電話を背後の那珂川へと投げ入れる。ぽちゃん、と水に沈む音が聞こえたところで、俺は背中を預けていた橋の欄干から体を起こした。

 ――馬鹿な奴だ。

 にやりと口の端を上げる。

 計画は大成功。無事にひと仕事終えたお祝いがてら、一杯ひっかけに街へと繰り出す。福博であい橋をスキップで渡りたい気分だった。

 この吉沢という男と連絡を取ることはもう二度とない。来月連絡するというのは真っ赤な嘘だ。

 さらに言えば、MIコンサルティングの松永――そんな奴はこの世に存在しない。これも嘘。

 先に自己紹介をしておこう。

 俺の名前は大金満。年は二十九。

 職業は、ただの詐欺師だ。



フェイク・ゴールドラッシュ


 ――騙される奴が悪い。

 殺人や強盗などの凶悪事件と違い、詐欺は知能犯罪だ。騙される奴さえいなければ、騙す奴もいなくなる。この世に騙される奴がいる限り、詐欺師が食いっぱぐれることはないだろう。

 つまるところ、詐欺師を詐欺師たらしめているものは、他でもない間抜けなカモたちなのだ。

 ――というのは俺の持論で、もちろんそんな屁理屈が社会において通用するはずもない。詐欺は違法だ。逮捕もされる。俺も過去に一度だけ、まだ東京で働いていた頃にとんだヘマをしてしまい、一年半の刑務所生活を送る破目になったことがあった。顔と名前が割れて仕事がしづらくなり、俺は出所後、東京を離れることにした。そして、あちこちの都市を渡り歩いているうちに、ここ福岡市にたどりついた、というわけだ。

 この街での生活はまあまあ気に入っている。昨年の福岡における特殊詐欺の被害額は十億円を超えているらしい。地元のニュースでも高額被害の事件が度々報道されている。詐欺師にとって働きやすい街だといえるだろう。

 福岡には他にもいいところがある。飯は美味いし、娯楽も充実している。競馬、競輪、競艇から裏カジノまでありとあらゆる賭け事が楽しめるし、歓楽街の中洲ではいい酒といい女が待っている。ギャンブルとアルコールに目がない俺にとっては天国のような場所だ。

 俺の行きつけの店も、その中洲にある。華やかな大通りから少し離れた場所に建つ古いビル。その二階でひっそりと営業している『スティング』という名前のバーは、こぢんまりとしていて雰囲気のある店だ。今はまだ『準備中』の札がかかっているが、俺は構わずドアを開けた。入って左手にはポーカー台とビリヤード台があり、客同士で賭け事を楽しんでいる姿をよく目にする。右手には背の高い丸テーブルとスツールのセットがいくつか配置されていて、その奥がカウンターになっている。もちろん、まだ営業時間外なので客はひとりもおらず、店内はがらんとしていた。

 中に入った俺は、迷わずカウンター席に座った。伊達眼鏡を外し、ネクタイを緩めて息を吐く。

 カウンターの中にはキャスケットをかぶった男がいる。歳は五十後半くらい。彼がこの店のマスターで、実は元詐欺師だ。五年ほど前に足を洗い、詐欺で稼いだ金でこのバーを開いたそうだ。そういうわけで、この店は俺のような輩のたまり場でもあった。

「またタダ酒飲みにきたのか、ミッチ」俺の顔を見て、マスターがからかうように言った。

 詐欺師は自由業だ。収入はそのときによってピンキリで、一流プロ野球選手の年俸並みの額を叩き出す月もあれば、アルミ缶を集めてるその辺のホームレスの方が稼いでるんじゃないかっていう月もある。最近の俺の収入は、どちらかといえばホームレス寄りだった。それでも大好きな酒を飲むことはやめなかったので、この店でのツケがたまりにたまっている、という状況だ。

「まあまあ、そう言わずに」マスターの嫌味に、俺は穏やかな笑顔を返した。今の俺には金がある。だから心にも余裕がある。「今日はちゃんと払うって。先月のツケも一緒にね」

「ほう」マスターが目を丸くした。「お前がギャンブル以外のことで羽振りがいいなんて珍しいじゃないか。いくら稼いだんだ?」

 俺は鞄の中から札束を取り出すと、

「百五十」

 と得意げに言い、カウンターの上に置いた。

「柳川市のウナギ養殖事業に投資させた」

 もちろんそんな事業は存在しない。俺は数か月前、市内で開催された初心者向け投資セミナーで吉沢という名の飲食店経営者に接触し、水産会社の経営コンサルタントを装って嘘の投資話を持ちかけた。

「一口十万、月利3%で元本保証、先月は投資家特典として冷凍ウナギを贈ってやったら、すっかり信用してくれちゃってね」

 初心者向けセミナーはカモの宝庫だ。投資に興味はあるけど詳しくはないです、自分は騙される可能性が高いです、と自ら公言しているようなもの。現に、その小金持ちのカモは半信半疑ながらも、俺の口車に乗り十万円を投資した。まずは失敗しても痛くない額から。お決まりの流れだ。

 それから数か月間、投資額の3%が毎月ちゃんと返ってくることを確認したカモは、次第に俺の話を信用するようになった。架空の社長からのお礼状とともに自宅に送り付けた投資者特典のウナギも、相手を信じ込ませるための小道具に過ぎない。投資先の養殖場で獲れたものではなく、実際は俺がスーパーで買った中国産ウナギだったのだが、カモは電話口で『最高に美味しかった』と絶賛していた。こいつが経営している飲食店には行くまいと思った。

「――それで、お前を信用したカモは、さらに十五口を投資した、ってわけか」

「そういうこと」

 マスターの顔を指差し、俺は頷いた。さすがは元詐欺師、話が早い。

「最初は相手に得をさせておいて、信用させたその後で大きくむしり取る。詐欺の常套手段」

 カモが百五十万円を振り込んだところで、俺の仕事は終わり。俺との連絡が取れなくなって初めて、相手は騙されていたことを知るのだ。

「ほんっと間抜けだよなぁ、こんな典型的な手に引っかかるなんて」得意顔のままマスターに尋ねる。「――で? 俺のツケはいくらだっけ?」

「七口だ」

「……結構飲んだな」

 先月の自分に対して眉をひそめながら、俺は札束を数え、七十万円をマスターに手渡した。ここ数か月かけて仕込んだ仕事の稼ぎが、一瞬で半分ほどになってしまった。

 この調子では残りの金もあっという間になくなってしまいそうだ。休んでいる暇はない。ぼちぼち次のカモを物色しはじめた方がよさそうだな。

 何かいいネタはないものか……。

 頬杖をつき、ウイスキーのロックで喉を潤しながら思索する。開店時間まではまだ時間があるが、俺は常連のよしみで酒を出してもらえた。マスターはというと、老眼鏡をかけ、カウンターの中で新聞を読んでいる。

 ふと、俺はその一面に目を向けた。『金印』『盗まれる』の文字が目に飛び込んできて、興味をひかれる。

「金印って……あの金印?」

 マスターが新聞紙から顔を上げ、俺を見た。「他にどの金印があるんだよ」

「かんのなのわのこくおう?」

「かんのわのなのこくおう」

「そうそう、それ」

 俺は身を乗り出し、新聞に顔を寄せて記事を読んだ。昨夜未明、福岡市博物館に所蔵されている金印が何者かによって盗まれてしまった――と書かれている。これは大事件じゃないか。

「プロの仕業だろうなぁ」と、マスターは言う。この男はその筋にも詳しい。「最近、福岡で外国人窃盗団による被害が多発しているらしい。仏像やら彫刻やら絵画やら、骨董品から美術品まで見境なく盗まれる被害が相次いでる」

「その盗んだ品々はどうしてんの?」

「一部は海外で転売、残りは日本国内のコレクターに売りさばいてるらしい。反社会的な収集家なら、盗品だろうと喜んで買うからな」

 つまり、今回の事件が外国人窃盗団の仕業だったとしたら、今頃あの金印は世界のどこかにいる国宝コレクターの手の中かもしれない、ということか。

「……ふーん」俺はにやりと笑った。「金印、ねえ」

 ――いいこと思いついちゃった。

 そんな俺を見て、「またろくでもないこと考えてるな」とマスターは肩をすくめていた。

 ろくでもないこととは心外だな。俺は金儲けのことしか考えない、仕事熱心な男だよ。


   *


 金印というのは、その名の通り黄金で作られた印だ。一辺2.3センチ、重さは108グラム。江戸時代に福岡の志賀島で発見されたもので、『漢委奴国王』という文字が刻まれている。現在は福岡市博物館に所蔵されており、年間十数万人もの客がその小さな国宝を見に訪れるという。

 教科書にも載るような超有名な代物が盗まれたのだから、福岡の街は大騒ぎになっていた。ローカル局のニュース番組でも連日取りざたされ、警察も躍起になって犯人を捜しているようだが、事件に進展はなさそうだった。

 詐欺というものは、時事や世相、世の中の流行りなどに影響を受けることが多い。たとえば、健康ブームになれば健康食品の詐欺が流行るし、仮想通貨が話題になればさっそく投資家を騙す奴が出てくる。社会が高齢化すればジジババを狙う奴が増える。逆に言えば、詐欺師は時代に敏感で、常にアンテナを張り巡らせているというわけだ。

 数日後、俺は六本松へとやってきた。福岡城跡から徒歩二十分ほどの場所にあるテナントビルへと向かう。この三階には、山下鞠夫という知り合いの若手芸術家が暮らしている。

 マリオの自宅兼仕事部屋は、コンクリート打ちっぱなしの壁に包まれている。中に入ると、まずギャラリーがあり、十畳くらいの狭いスペースにマリオが制作した絵やら彫刻やらが飾ってある。どれも奇抜な作品ばかりだ。さらに奥へと進むと、絵の具の臭いが漂ってくる。そこはアトリエで、マリオはちょうど作業中だった。大きなキャンバスに向かい、黙々と筆を走らせている。

 俺はそっと背後に忍び寄り、

「だーれだ」

 と、両手でマリオの目を塞いだ。

「ああーっ!」マリオが叫び声をあげ、勢いよく振り返る。「オイ! どうしてくれんだ、これ!」

 俺のせいで手元が狂い、線が歪んでしまったらしい。俺は「ごめんごめん」と軽い調子で謝りながら、どれどれとキャンバスを覗き込んだ。そこには人の顔みたいなものが、毒々しい色合いと角ばったタッチで描かれている。キュビズムの類だろうか、俺にはさっぱりわからない。正直、どの線が歪んだのかも判別できないレベルだ。だが、この男の芸術が理解できないのは俺だけではないようで、マリオの独創的な作品はどれも、なかなか買い手がつかないでいる。

「今回の絵も攻めてんなぁ」と、俺は適当な感想をこぼした。

「何の用だよ、ミッチ」ひとつに結んだ髪の毛を解きながら、マリオが俺と向き合った。日本人離れした彫りの深い顔立ちに、肩まで伸びたくせ毛。マリオは日本人とイタリア人のハーフだ。絵の具のついた手でこすったのか、高い鼻が赤色に染まっている。

 その辺に置いてあった丸い椅子のようなものに俺が腰を下ろそうとすると、マリオは「俺の傑作に座るな」と注意した。これも作品だったのか。

 仕方なく、その場に立ったまま話をする。「お前さ、前に作ったことあったよな? 黄金のブードゥー人形みたいなやつ。金を溶かして、型に流し込んでさ」

「あれはブードゥー人形じゃなくてマリア像だ」

 どっちでもいい。俺は本題に入った。「ひとつ仕事を頼みたい」

 山下鞠夫は売れない芸術家だ。自分の作品だけでは食っていけない。大昔から生活の苦しい芸術家たちがそうしてきたように、彼も副業で生計を立てている。既存の作品の模造品制作――この男の裏の顔は贋作師で、俺とはビジネスパートナーでもあった。

 ところが、

「嫌だ」

 生意気にも、マリオは俺の頼みを断ってきた。

「俺はお前の下請けじゃない。それに、今は自分の作品で忙しいんだ」

「はあ? ふざけんなよ。お前が描いたへったくそなゴッホ、コレクターに七千万で売りつけてやったの、誰だと思ってんだ」

 この俺だ。

 七千万のうち、取り分は俺が六割でマリオが四割。俺の詐欺師としての腕のおかげで、マリオは三千万近くを儲けることができたわけだ。この自惚れの強い無名の芸術家は、その全額をつぎ込み銀座で初の個展を開いたのだが、どういう結果に終わったのかは想像に難くない。

「お前は贋作を生み出すことはできるけどな、セールストークは全然ダメだ。俺みたいなブローカーがいてこそ儲けられるんだぞ」

 その文字通り高い鼻に指を突き付けて言ってやれば、さすがにマリオも言い返さなかった。

「あー、わかったよ、もう。……で、今度は何を作れって?」

「これの贋作」

 と、俺は箱を渡した。中には金印のレプリカが入っている。博物館の売店で買ってきた土産ものだ。

 中身を見て、マリオは眉をひそめた。「は? 金印?」

「ブードゥー人形より簡単だろ?」

「マリア像な」

「一辺2.347センチ、重さ108.729グラム。金が95%で、銀が4.5%、銅は0.5%だ。五日以内に頼む」

 マリオはあからさまに嫌そうな顔をしていたが、俺は「んじゃ、よろしく!」と爽やかな笑顔で仕事を押し付け、彼のアトリエを出た。


   *


 なんだかんだ文句を言いつつも、頼まれた仕事はきちんとこなす。山下鞠夫という贋作師はそういう男だ。

 それからきっちり五日後、マリオから連絡があった。贋作が完成したとのことだ。俺はさっそく彼の仕事場まで品物を迎えに行った。

 アトリエに足を踏み入れた瞬間、マリオが何かを投げてきた。「おっと」と慌ててキャッチする。小さな四角い金の塊――金印だ。

「おお!」出来上がった贋作をじっくりと眺め、俺は声を弾ませた。「やるじゃん! いい感じじゃん!」

 一面いっぱいに彫られた『漢委奴国王』の文字も、実物と寸分も違わない。どこからどう見ても、本物の金印だ。見事な出来である。

 このマリオという男は、オリジナルの作品はエキセントリックで奇奇怪怪だが、贋作にかけては誰もが認める天才だ。その出来栄えには毎度のことながら感心してしまう。

「さすがは『福岡のダ・ヴィンチ』と呼ばれるだけのことはある」

「呼ばれたことねえし」マリオはむっとしている。「お前、適当におだてときゃ俺が言うこと聞くと思ってるだろ」

「いやいや、そんなことないって」

「へったくそなゴッホって言ったくせに」

 気にしてたのか。「あれは冗談だってば。ほら、売り言葉に買い言葉ってやつ」

 へらへら笑ってごまかしながら、俺は偽金印を胸ポケットにしまった。

「ったく、変なもん作らせやがって」マリオが顔をしかめる。「今度は何を企んでんだ、お前」

「盗品ブローカーになりすまして、こいつを収集家に売りつけるんだ」胸を叩き、俺は自信満々に答えた。

 例の事件は犯人逮捕に至っておらず、博物館から盗まれた金印は未だ見つかっていない。――これはチャンスだ。この世には、盗品だろうと喜んで買い集めるようなコレクターが少なからず存在する。それが国宝となれば引く手数多だろう。窃盗犯が捕まり金印が発見されるまでの間に、偽の金印を高値でコレクターに売りつける――それが、俺の今回の計画だ。

「うまくいくのかよ、そんなの」

 マリオは半信半疑だ。だが、彼に限ったことではない。詐欺の話を聞けば、世の大半の人間は思うだろう。明らかに怪しい話じゃないか、そんなものに騙される奴がいるのか、と。

 ところが面白いことに、騙される奴は必ずいる。詐欺師の仕事は、そんな間抜けなカモを見抜き、演技力とトーク力で信用させ、自ら進んで金を出すように仕向けることだ。

「いくら俺の作品が完璧でも、さすがに金印は怪しすぎて騙せないんじゃないか」

「それを騙すのが俺の仕事だ」俺はマリオの言葉を軽く笑い飛ばした。「そもそも本物の金印だって怪しい代物だしな。万が一疑われたとしても、いくらでも言い逃れできる」

「万が一、警察に捕まっても」マリオが俺の顔を睨みつけた。「絶対、俺の名前は出すなよ」

「捕まるようなヘマはしない」過去に一度だけあったが。「安心しろって」

「今回の俺の取り分は?」

「必要経費を差し引いた、残りの30パーセントをお前にやるよ」

「たったの三割?」マリオはむっとしている。「ケチな詐欺師だ」

「贅沢言うな」と、俺は一蹴した。



 マリオのアトリエを出ると、俺は最寄りの駅へと向かった。

 歩きながら、頭を働かせる。さて、金印は用意できた。次はカモだ。誰を狙おう? 標的を頭の中で物色する。金持ちで、盗品にも平気で手を出す人物。俺には思いつかないが、『スティング』のマスターなら心当たりがあるだろう。彼は情報通だ。ちょうどいいカモを紹介してくれるかもしれない。

 五分ほど歩いた、そのときだった。

「――すみません」

 不意に呼び止められ、俺は足を止めた。

 俺のすぐ横に、黒塗りの車が停車した。

 高そうな車だ。運転席の窓から男が顔を出している。歳は三十後半から四十前半くらい。スキンヘッドで強面の、黒いスーツを着た男だった。左の頬に傷がある。一度見たら忘れられない顔だ。

 足を止めると、男は車から降りてきた。「道に迷ってしまって」と地図のようなものを手に、俺に近付いてくる。まあ、この辺りは道が入り組んでいて地元の人間以外にはわかりにくい。迷子になるのも無理ないな、と思う。

 男は俺の傍に立ち、地図を見せてきた。どれどれと覗き込んだ、そのときだった。突然、俺の胸元に衝撃が走った。内臓を圧迫され、思わず「うっ」とうめき声があがる。全身の力が抜け、俺は目の前の男にもたれかかるしかなかった。

 男は軽々と俺の体を抱き留め、そのまま引きずって車の後部座席に乗せた。意識がもうろうとしていた俺の視界が、ゆっくりと暗くなっていく。それ以降の俺がどうなったのか、見届けることはできなかった。