もし、キミと



 夏、僕たちは砂漠にいた。

「さすがに喉渇いたね」

 検索すると、近くに自販機があるとわかった。

 水を買って二人で飲んだ。

「次、どこ行けばいい?」

 僕は彼女に尋ねる。

「今が鳥取砂丘でしょ? 次は京都行ってみたら?」

 どこか他人事のように彼女は言う。

「ちょっと休ませてくれよ」

 今年の夏は暑い。

 気温は三十八度。死んでもおかしくない。

 日本一周、彼女が言い出したことだ。

 それでも、富士山も阿蘇山も登ったし、北海道も行った。

 バイトして金を貯めていたとはいえ、それほど潤沢に資金があるわけではない。

 テントを張って夜を過ごす。

「野宿、うまくなったよね」

 彼女が感心したように言う。

「君は蚊に刺されないから、羨ましいよ」

 もうすぐ受験だ。高三の夏休みにこんなことしてる場合だろうか。不安になる。

「大学受かったら、何したい?」

「勉強?」

 彼女は、信じられない、という顔をした。

「じゃあ、何したらいいんだよ」

「女遊びとか?」

 ノートを取り出して、眺める。

 彼女の「死ぬまでにしたいことのリスト」が、たくさん書かれている。

 もうそれも、これで終わりだ。

 ・日本一周旅行がしたい

「これ全部終わったらさ」

 僕はたまらない気持ちになった。

「私のこと忘れてね」

「忘れないよ」


 翌朝、ノートを眺めた。

 何度見ても、もう、やり残したことは何も残っていない。

 全部やってしまった。

 そう思うと、なんだか妙な喪失感があった。

 本当は彼女が生きている間に、全部やりたかった。

 しばらく自転車を漕ぐと、そのうち、見慣れた街の景色が見えてきた。高校の前をすり抜けて、待ち合わせ場所に急ぐ。

 ギアを上げる。立ち漕ぎで坂を登る。

 坂を登り切ったところに、香山が待っていた。

「おつかれ」

 香山は見たことない女を連れていた。

「高三の夏に一人で自転車で日本一周旅行ってさ、お前そんなキャラだっけ?」

「うるさいんだよ」

 これから何をしよう。

 僕の、死ぬまでにしたいことはなんだろう。

 本当にしたいことをしよう。