あれは、中学一年生の頃。

 その女の子のことは、特別好きなわけでも、嫌いなわけでもなかった。


 クラスであまり目立たない、物静かな女の子。髪はいつもポニーテールで、くりくりとした瞳に、程よく日に焼けた肌。密かに、男子の人気は高かった。

 ある日突然その子から告白されて「付き合ってください」と言われた時、僕には断る理由がなかった。

「真面目なところが好きです」

 という彼女の言葉が、ただ純粋に、嬉しかった。


 一ヶ月と経たないうちに、その子から別れを切り出された。

 いきなり後ろから撃たれたような気分で、ひどく混乱したのを覚えている。

「気持ちが冷めてしまった」

 という彼女の言葉が、頭のなかで自動的に、

「あんたと一緒にいてもつまらない」

 という台詞に変換され、僕を苦しめた。必死で心の平静を保とうとしたが、今よりもっと幼かった僕にとっては、少々荷が重かった。

 彼女のことを憎んだり、嫌いになったりはしなかったが、恐怖心に似た感情を取り去ることはできず、結局卒業するまでのあいだ、彼女とは一言も話せなかった。


 真面目なのは、そんなに悪いことだろうか。

 そんなに、つまらないことだろうか。

 僕はただ、ルールを守り、周囲とぶつからないように生きてきただけだ。

 そうすれば傷ついたり、誰かを傷つけることがないと思っていたから。

 けれどもこのとき、確かに僕は彼女を傷つけ、自分自身も傷を負った。


 それからというもの僕は心を入れ替えて、真面目な自分に別れを告げたかというと、残念ながら、そう簡単に人は変われない。


 だから僕は今日も抑揚のない声を意識して、この言葉を口にするのだ。


「お気持ちは分かりますが……、ルールはルールですから」



プロローグ

 安政六年の開港以来、外国の文化をいち早く吸収、発信してきた港町である横浜。

 ランドマークタワーがそびえる「みなとみらいエリア」。大型客船が停泊する「大桟橋」。日本最初の臨海公園と言われる「山下公園」。そして、東アジア最大のチャイナタウン、「横浜中華街」。

 国内屈指の観光地として名を馳せる横浜から、電車に乗って五分。こじんまりした駅から歩くこと十分強。

 僕が通う大学は、そんな場所にある。

 そして僕は今、大学サークル棟の外れに位置する、とある団体の部室に来ている。

 その部屋は、ひどく薄暗い。

 入って右手側にあるはずの窓が、背の高い本棚によって隠されているのだ。そこには圧倒的な量の蔵書が、隙間なく詰め込まれている。

 僕は革張りのソファに座ったまま、横目で本の背表紙をざっと眺めた。

 なるほど、古今東西の探偵小説が蒐集されている、といったところか。

 しかし、もとより詳しくもない僕には、それ以上の感想が出てこなかった。

「でも、ルールは『破るため』にあるんでしょう?」

 涼やかな声で、彼女が言った。

 長い睫毛に彩られた黒い瞳が微かな光をたたえ、揺れている。すっと通った鼻梁に、少し薄いけれど形の良い唇。背中に流れる艶やかな黒髪は、息を呑むほどに美しい。

 プリーツスカートにタイツ、ローファーなど、黒を基調とした服装のなかで、彼女のほっそりとした上半身を包む半袖のブラウスだけが、眩しいほどに白い。

「なにを馬鹿な。『守るため』に決まっています」

 憤りを隠しながらも、僕は努めて丁寧な口調を心がける。そんな僕を小馬鹿にするように、彼女はふんと鼻を鳴らした。

「それだと事件が起こらないじゃない。凶器が煙のように消えるとか、完全密室であるとか、死体の首を切り落とすとか、なにかしらルールから逸脱した要素がないと、それらは単なる〝事象〟の域を出ない」

「なにを言ってるのかよく分かりませんが……、とにかく、これではダメです。承認どころか、受理もできかねます」

 そう言って僕は、ローテーブルを挟んで向かいのソファに座る彼女の前に、ホッチキスで綴じた三枚の書類を置いた。彼女は視線だけを動かしてそれをちらりと見てから、ゆっくりと手を伸ばした。書類ではなく、その隣に置かれた、小ぶりの千手観音像に。

 この部屋に入ったときから、ずっと気になっていた。場違いにもほどがあるだろ。しかもこの千手観音像、その手に持つのは錫杖、宝鉢、水瓶などではなく、ポップな包装紙が目を引く棒付きキャンディなのだ。

「あなた……、えっと」

「学生自治会の、宇賀神楽人です」

 彼女の折れそうなほどに細い腕が音もなく宙を滑り、千手観音像からついとキャンディを引き抜いた。

「どこかの講義室で、誰かが噂してた。『血も涙もない死神みたいな一年生がいる』だったっけ。……ふぅん。あなたがその死神というわけ?」

 失礼な。初対面の相手を値踏みするようにじろじろ見ながら言う台詞ではない。

 けれども、返す言葉がないので、僕は黙っていた。

「一年生なのに自治会に入って敏腕を振るうなんて……、たいしたものね」

 いけませんか? と言いそうになったが、ぐっと堪えた。それに、敏腕を振るっているのは自治会の先輩であって、僕ではない。僕の役割は、伝書鳩に過ぎない。

「それはそうと死神くんも、おひとついかが? チェリー味」

「いえ、結構です。甘い物は苦手なので」

 彼女はほとんど分からないくらい小さく肩をすくめると、包装紙を剥き、どぎつい色のキャンディを口に含んだ。

「それで、なんだったっけ?」

 ころころとキャンディを口のなかで転がしながら、彼女はあっけらかんと言った。

 僕はそっとため息をついて、再び書類を取り上げる。

「ミステリ研究会代表、霞ヶ浦秋乃さん。先ほども申し上げましたが、提出して頂いたサークル存続届について、添付の活動状況報告書の内容に不備があります」

 ぺらりとめくって、彼女に見えるように持ち上げる。

「『待機』の二文字だけでは、活動状況を読み取ることができません」

「だって、待ってるんだもの」

「なにをですか?」

「事件が起きるのを」

 秋乃が少し首を傾げ、艶やかな黒髪が音もなくその肩を流れ落ちた。

「あるいは、依頼人がやって来るのを。……あ、あなたひょっとして」

「僕が依頼したいのは、事件の解決ではありません。書類の不備を直してもらうことです」

 秋乃は棒付きキャンディをくわえたまま、そっぽを向いた。

「そんなつまらない依頼は、こっちから願い下げ」

 僕はこめかみを押さえた。

 本当にこの人は、自分のことを探偵だと思っているんだろうか。確かに部屋の入り口ドアには、『霞ヶ浦探偵事務所』と書かれたプレートが掲げられていたが。

 ていうか、ここはミステリ研究会じゃないのか。なんだ、探偵事務所って。

 僕は改めて、本棚へと顔を向けた。今度は棚の最上段に視線を滑らせる。探偵小説の単行本や文庫本ばかりが並ぶなか、ふと、他とは違うテイストの背表紙が目についた。目立つ色合いの太いフォントで、『横浜・みなとみらい』と書かれている。

 ――あれは、観光ガイドブック? どうして、あんなものが一冊だけ?

 いやいや、今はそんなこと、どうでもいい。

 僕は軽く首を振ると、気を取り直して、手元の書類をさらにめくった。三枚目を持ち上げて、秋乃に見せる。

「収支状況報告書も、支出のみで、収入はゼロ。大学祭での展示や物販は、やらなかったんですか?」

「展示……。物販……。残念だけど、それは探偵の仕事じゃないわ」

 残念そうに苦笑してやがる! 本当に残念だよ!

 いやしかし、負けるものか。僕は少し天を仰いでから、彼女の整った顔を見据えた。

「探偵なら、これまで解決してきた数々の難事件について、本でも書いてみたらどうですか? それなら大学祭で売れるのでは?」

 皮肉が過ぎただろうか。秋乃は仏頂面でキャンディを転がしている。

「ビクトリア朝の時代から、探偵の輝かしい活躍を記録するのは助手の仕事と決まっているわ。そんなことも分からないの?」

 心なしか、声まで不機嫌そうだ。

 その様子では、助手はいらっしゃらないようですね。

 などと言ってやりたかったが、口に出すのは我慢した。

「今日は、他の会員の方はいらっしゃらないんですか? 会員登録簿によれば、他にも三人のお名前がありましたが……」

 代わりにひねり出した僕の質問を完全に無視して、秋乃がふぅとため息をついた。

「それにまだ、記録すべき事件が起きていないことが問題と言えなくもないわね」

 霞ヶ浦探偵事務所の事件簿は白紙だった! これは傑作!

 ……なわけあるか。僕は盛大な脳内ツッコミを中断して、大きなため息をついた。

「いいですか、とにかくこのままでは、ミステリ研究会は……」

 そのときだった。

 白昼のキャンパスに似つかわしくない、女性の悲鳴が響き渡ったのは。

 僕は見た。

 それまで眠そうな猫みたいだった秋乃の頭の上で、見えない耳がぴんと立つのを。

 彼女は勢いよくソファから立ち上がり、先ほどまでの仏頂面はどこへやら、期待に目を輝かせながらこう言った。

「きっと事件だわ。行きましょう」

「行くって……、どこへですか」

「現場に決まってるでしょう」

「いや、何言って」

「早く準備なさい! 私の活躍を記録するんでしょう?」

「誰が? 僕が? いや、しません! どういう発想で、そうなるんですか!」

 秋乃はじれったそうな表情を浮かべると、ローテーブルを回り込んでこちらに近づくと、いきなり手を伸ばした。ソファに座る僕の腕を掴んで、力任せに引き寄せる。慌ててテーブルの書類を拾い上げた僕の襟首を引っ張って、彼女はその綺麗な顔をぐいと近づける。僕は思わず、息を呑んだ。

「なにが活動状況報告書よ。しちめんどくさい。そんなに知りたいなら、あなたのその目で直接見ればいいでしょう?」

 獲物を狙う猛禽類のごとく瞳は冷たく煌めき、唇が不気味につり上がった。

 僕は射すくめられた臆病な小動物さながらに身を震わせ、なす術もなく、鼻息荒い彼女に引き立てられてゆくことになった。

「……わけが分からない!」

 恐怖と憤りと混乱のなか、そう言うのが精一杯だった。

 これだから、ルールを守れない人の行動原理は、理解不能なんだ……。



第一話 『落ちた薬指の謎』

 時間は少し戻る。

 僕がミステリ研究会の部室に出向く前、場所は大学管理棟の学生自治会室だ。

「いやー、ほんとに助かるわ。サンキューな」

「決まりきった内容をお伝えするだけなので」

 パイプ椅子に腰掛けた相手が、組んでいた長い脚を解いて、こちらにそっと顔を近づけ小声で囁いた。

「でもさぁ、内容が内容だけに、いろいろ不満とか反論とか抵抗とか、あるじゃん? そういうのと向き合うのって、心がこう……、すり減るじゃん?」

 そんな仕事を後輩にやらせて自分は自治会室で優雅に缶珈琲を飲んでいるこの人は、池原俊。学生自治会の副会長で、三年生だ。身長が一七二センチある僕よりも背が高く、ほっそりした体格だ。ふんわりと柔らかそうな前髪が、優しげな瞳を半分ほど隠している。美しく長い指で、その前髪を音もなく払った。そのまま右手は舞うように宙を滑り、膝の上へと戻る。下手をすれば鼻につくこんな仕草も、この人がやるとサマになるから不思議だ。

「ルールはルールですから。守ってくれない人たちにその事実を伝えて、決められたペナルティについて説明するだけです。別に心は痛みません」

 各サークルは毎年五月に、来年度の存続届を大学側に提出する必要がある。添付された活動状況報告書と収支状況報告書の内容も鑑みて、七月の委員会で承認決定、通知されるのだ。

 存続届を出さない、出しても活動内容に疑問があるサークルには、出向いて実情をヒアリングしたり、改善の提案をしたりする。それでも不適切と判断したときには、存続願いの却下を言い渡す。

 つまり、事実上の廃部勧告を行うのだ。

 僕たち学生自治会のサークル担当は、大学の学生支援課から権限委任を受けて、そんな仕事をしている。

「ルールの番人として乱れた風紀の是正を行い、キャンパスの平穏を保つ。ラクトはほんと、学生自治会に入るために生まれてきたような男だなぁ。恐れ入るよ」

「そうやってまた、心にもないことを」

 大小のサークルが乱立する一方で、サークル棟の部屋には限りがあるのだ。使いたい団体が、たくさん待っている。ルールを守らず、自らの活動すらきちんと報告できないような体たらくならば潔く解散して、別の団体に部屋を譲るのが筋だと思う。 

「ホントだって。いやぁ、さすが、死神と恐れられるだけのことはあるよなぁ」

「ひょっとして褒められてますか? 残念ですけど、全く嬉しくないです」

 僕が入学して学生自治会に入って、二ヶ月が過ぎようとしている。

 池原先輩の指示で廃部勧告を行ったサークルの数は、いつの間にか十を超えた。ありがたくもない通り名で揶揄されても仕方がないと、半ば諦めている。

「それに、僕はただの伝令ですから」

 一年生が廃部勧告を決定できるわけがない。判断を下しているのは他でもない池原先輩だ。穏やかな口調と外見にだまされてはいけない。この人は、ただの人畜無害なイケメンなどではないのだ。

 一度判決を下したら、くだらない情には流されず、ささいな例外も認めない。その判定眼は鋭く研ぎ澄まされており、極めてドライである。彼こそが本当の意味で公明正大なルールの番人であり、これまで数え切れないサークルに廃部という判決を与えてきた張本人なのだ。

 僕が対象の団体に出向いて廃部勧告を行う死神なら、池原先輩はさしずめ、地獄の閻魔大王といったところか。

 さらに言うなら、裏から糸を引き、決して自らの手を汚さない仕事ぶりは、悪の組織の黒幕も真っ青である。

 池原先輩は飲み終わった空缶を長机に置くと、傍らの書類を取り上げた。

「それじゃあラクトに、ちょっと歯ごたえのある仕事をやってもらおうかな」

 にっこり笑った池原先輩から受け取った存続届には、『内容不備』と書かれたピンク色の付箋が貼ってある。

「ミステリ研究会……? なんですか? この『待機』って」

「その謎を解き明かすのが、お前の仕事ってわけだ」

 ということは、池原閻魔大王はまだ、判決を下していないということだ。そのための材料を集めてこい、ということだろう。

「分かりました。けど、こんなスカスカの内容じゃ、あまり期待はできないですけど」

「そう思うか?」

「書くことがない、つまり、意義のある活動をしていない、ということでは? そもそもこれでは活動状況報告書の体をなしていません。審査基準を満たしていないと判断しても、反論できないのでは?」

「なるほどなぁ。確かに、ルールはルールだもんなぁ」

 池原先輩は、含みのある笑みを浮かべている。

「ひとつ教えとくよ。ミステリ研究会は、昨年度の報告書には非の打ち所がなかった。定期的な会合に部誌の発行、学園祭での展示に物販。全て詳細に記録されていて、実態とも相違なし。収支状況も明瞭かつ健全。だからこそ、今も存続しているわけだが」

「そんなにきちんとした団体なのに、どうしてこんな……」

『待機』の二文字から視線を上げて池原先輩を見る。しかし、答えは返ってこない。

 まったく。……分かりましたよ。その理由を調べてこいと仰せなら。

「どんな事情があるのか、知りませんけど」

 僕はふんと鼻を鳴らした。

「決まりを守らない人たちに、なにを訊いても無駄だと思いますよ」



 霞ヶ浦秋乃に腕を引っ張られながら、僕はミステリ研究会の部室を出た。

 女性の声は、どこから聞こえたのだろうか。ひょっとして空耳じゃないのか?

 だいたい、白昼のキャンパスで悲鳴なんて……。

「こっちね。反響の具合からして、この建屋のなかに違いない」

 秋乃はそう断じると、サークル棟の廊下をずんずんと進む。

「よくそんなこと、分かりますね」

「求めよ、されば与えられん」

 そう答えながら、彼女はひとつのドアの前でぴたりと足を止めた。そこには、『現代服飾文化研究会 クラウドクローゼット』と書かれた木製プレートが掲げられている。

「……ほ、ほんとに入るんですか? 絶対驚かれますよ。やめたほうが」

 尻込みする僕の言葉を完全無視して、秋乃はドアを軽くノックすると、返事も待たずにそれを勢いよく開け放った。

「ここが現場ね。さぁなにが起きたのか教えて頂戴。密室殺人? 消失トリック? それとも首なし死体かしら?」

 部屋のなかには、三人の男女がいた。長身ですっきりとした顔立ちの男子がひとり。髪を明るく染めてばっちりメイクを施した、気の強そうな女子がひとり。最後のひとりは、黒髪ショートカットで眼鏡をかけた、おとなしそうな女子だ。

 三人は、突然の闖入者の登場に、揃って目を丸くしている。当然だ。僕は慌てて割って入った。

「あの、霞ヶ浦さん。いきなりそんな、探偵小説みたいなことが起きるわけ……」

 秋乃は振り返ると、美しすぎる目できっと僕を睨んだ。

「助手が事件を否定してどうするの。ちゃんとルールを守りなさい」

 あんたには言われたくない! あと、助手になった覚えはない! もうひとつ言えば、キャンディ咥えたまま来るなよ!

「探偵? は? なに、コイツら」

 強気メイク女子が、嘲るような半笑いを浮かべて言った。

「し、死体って……、そんなものあるわけないだろ」

 続けて口を開いた長身男子は、これ以上ないほどの困惑顔だ。不安なのか、シャツの胸ポケットからのぞく煙草の箱を手で触っている。

「……そう。死体はないのね……」

 秋乃が沈んだ声で、ぽつりと言った。

 なんでそんなに残念そうなんだ!

「いったいなんの用ですか」

 眼鏡女子が、落ち着き払った、とげとげしい口調でぼそりと呟いた。僕は焦る。

「いきなり押し入ってしまったことはお詫びします。僕は止めたんですけど……」

 言い訳がましい態度が気に食わなかったのか、秋乃がこちらをジト目で見ている。

 ……う。少し凹んだ僕を見捨てるように視線を外して、秋乃が眼鏡女子と対峙した。

「わけもなく悲鳴をあげる人間はいない。それが聞こえたということは、この場所でなにか事件が起きたんじゃない? 私はそれを探しにきたの」

「だから霞ヶ浦さん、物事には順序というものがあってですね」

 自分の素性を明らかにしないうちから、相手がそう簡単に口を開いてくれるわけがない。どうも霞ヶ浦秋乃という人は、そのあたりの感覚がズレている気がする。

 僕はまず名乗り、自分が学生自治会の人間であることを告げた。

「ちょっとした実地調査のために、このサークル棟を訪れたんです。そしたら女性の悲鳴が聞こえたものですから」

 長身男子ひとりが、気まずそうに目を伏せた。ふたりの女子は、傲然とこちらを睨みつけている。

「で、こちらはミステリ研究会代表の」

「霞ヶ浦探偵事務所の霞ヶ浦秋乃よ」

 食い気味に訂正しつつ、秋乃は僕の気遣いをぶち壊した。

「さぁ、無駄話はもういいでしょう。そろそろ事件について、話してくれるかしら」