作家エッセイ
四季折々
メディアワークス文庫の作家が「季節」をテーマに綴るエッセイ。
今月は2017年1月より連続ドラマがスタートする大人気シリーズ
『探偵・日暮旅人』シリーズの著者・山口幸三郎先生がお贈りします。 ※メディアワークス文庫に挟まれている刊行情報チラシ「HeadLine」にも同じエッセイが載っています。
第3回 「すずめのラッパのこと」仲町六絵

 京都に下宿していた、学生時代のことです。地面に散った桜の花びらの中に、花がいくつか混じっているのに気づきました。一枚一枚散ったのではなく、一輪丸ごとです。
 なぜだろう、と桜の木を見上げたら、理由はすぐ分かりました。すずめが花を食いちぎってラッパのようにくわえ、ポイと捨てていたのです。たぶん蜜を吸っていたのでしょう。中にはくちばしで突いたような、点状の傷あとが残る花もありました。
 次の日鴨川へ行くと、同じように大量の桜の花びらと、ほんの少しの花が浅瀬に浮かんでいました。これもすずめの仕業かな、と思って見ていると、おじいさんに連れられた見知らぬ小さな男の子が「どうして花が落ちてるの?」と訊ねてきました。「すずめがちぎるから。くちばしのあとがあるよ」と教えると、男の子は小枝を使って水面に浮かぶ花を集め始めるではありませんか。浅瀬とはいえ、小さい子にはちょっと危険です。鳥の話をしながら、しばらく一緒に花を集めていました。
 その子の名前は忘れてしまいましたが、なつかしい思い出です。

*著者プロフィール*
2010年に『典医の女房』で、短編ながら第17回電撃小説大賞<メディアワークス文庫賞>を受賞。受賞作を大幅加筆した『霧こそ闇の』でデビュー。

*仲町六絵の作品*
・典医の女房・狭霧に隠された秘密とは?
戦国の世を舞台に紡がれる幽玄怪異譚。
『霧こそ闇の』

・幕末――激動の時代に、新時代の先駆けとなって散った志士たちがいた。
『夜明けを知らずに ―天誅組余話―

・古都・京都に佇む小さな私立図書館。
そこには、不思議な力を秘めた館長さんがいた――。
『からくさ図書館来客簿 ~冥官・小野篁と優しい道なしたち~

・古都・京都に佇む小さな私立図書館。
不思議な力を秘める館長さんたちの、新たな試練とは――。
『からくさ図書館来客簿 第二集 ~冥官・小野篁と陽春の道なしたち~