作家エッセイ
四季折々
メディアワークス文庫の作家が「季節」をテーマに綴るエッセイ。
今月は2017年1月より連続ドラマがスタートする大人気シリーズ
『探偵・日暮旅人』シリーズの著者・山口幸三郎先生がお贈りします。 ※メディアワークス文庫に挟まれている刊行情報チラシ「HeadLine」にも同じエッセイが載っています。
第15回 「紋白蝶を追いかけて」十三 湊

 田舎に住んでいた子ども時代、春は美しい季節でした。
 田圃を彩るれんげ草の鮮やかな赤紫に、畑に点在する菜の花の黄色。小さなしじみ蝶が鱗粉をきらめかせて飛び、苺シロップをサイダーで割ればきれいなピンクのソーダ水。わたしは美しいもの、ロマンチックなものに胸をときめかせる少女だったのです。
 あれは確か小学校に上がる前、近所の子どもたちと一緒に紋白蝶を追いかけて、畑の小道を歩いていたときのこと。少し離れたところに、奇妙なものを見つけました。円形の金属(?)が土に埋まっているようです。
 そう、それは物語なら、主人公が世界の秘密の一端に触れる場面。何だろう、と道を外れて近寄ったわたしは、何も考えずに円の中を踏み――
「ギャアア――!!!!」
 「生活」という現実がロマンチックな世界をぶちこわす。それが田舎です。
 わたしが落ちたのは、異世界への入口ではありませんでした。肥だめでした。
 初めてのエッセイで、なぜこんな美しくないエピソードを書いてしまうのか。自分が腹立たしくてなりません。

*著者プロフィール*
愛知県在住。生まれは「名古屋の植民地」と言われた岐阜。『C.S.T. 情報通信保安庁警備部』にて第20回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉を受賞して、デビュー。

*十三 湊の作品*
・サイバー犯罪と戦う捜査官たちの熱い活躍と不器用な恋愛模様が交錯する超娯楽大作!
『C.S.T. 情報通信保安庁警備部』

・世界の全ての記憶が集まった〈神の記憶〉に情報通信保安庁警備部の精鋭たちが挑む――!
『C.S.T.〈2〉情報通信保安庁警備部』

・いよいよ因縁の相手と決着が……!? そして御崎と伊江村の恋の行方は?
『C.S.T.〈3〉情報通信保安庁警備部』