作家エッセイ 四季折々

作家エッセイ
四季折々

※メディアワークス文庫に挟まれている刊行情報チラシ「HeadLine」にも同じエッセイが載っています。
第18回 「夏の空には友達がいる」 範乃秋晴

 時折、空を指して、あなたの友達がいる、と彼女が笑います。きっかけは、ある夏の出来事でした。京都に住み始めた私たちは、盆地特有の暑さにやられ、休日は決まって避暑に行くようになりました。鞍馬山や貴船の辺りが涼しいのですが、近場ですませようとなると、鴨川デルタが最適です。京阪電鉄、出町柳駅を降りたすぐのところにある三角州で、夏になると多くの人が川に入り涼をとっています。川を渡るための飛び石があり、そこを通るだけでも涼しげな気分を味わうことができるのです。
 出町柳駅の近くに美味しいおにぎり屋さんがあるのですが、そこでお昼ご飯を買い、河川敷でせせらぎを感じながらおにぎりを頬ばるのが、私たちの楽しみです。
 その日は河川敷の階段に座って、お昼をとることにしました。彼女との会話に夢中になり、食べかけのおにぎりを左手に持ったままいると、ふいに背後から黒い影が現れました。それは食べかけのおにぎりを一瞬で奪い、空高く飛び去っていったのです。トンビでした。落ち込む私に、友達にあげたんだよね、と彼女は笑い、自分の分のおにぎりをわけてくれました。

著者プロフィール

福井県出身。小学校入学までを石川県金沢市で過ごす。東京に出て作家デビュー後、とある事情から京都に移り住む。古都の暮らしを満喫していたが、また別の事情によって、今度は長野県へ。田舎暮らしを楽しんでいる。

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