作家エッセイ 四季折々

作家エッセイ
四季折々

※メディアワークス文庫に挟まれている刊行情報チラシ「HeadLine」にも同じエッセイが載っています。
第20回 「であいがしら」 小川晴央

 ある夏、兄はカブトムシの幼虫を育てていました。
「成虫になったら逃がしてあげようね」という母との約束の元、面倒見のいい兄の性格もあってか、カブトムシは立派に羽化してくれました。
 僕は立派な角と体を見て「確かにこの雄々しい戦士に虫かごは狭すぎる」と感じました。兄もきっと同じ気持ちだったでしょう。
 次の日、家族一同が見守る中、兄は手に乗せたカブトムシを空へと放り投げました。
「バイバイ!元気でね!」
 カブトムシはその声に応えるように、力強く羽を開き、空気を掻き分け、さらに高度を上げて、緑の生い茂る山々へと飛んで行かずにカラスに食べられました。
 まるで狙っていたかの様なタイミングでカラスが飛んできて、カブトムシを食べてしまったのです。カブトムシ的には「もう戻ってくるなよ」とシャバに送り出されてから5メートルで車に轢かれた感じでしょうか。家族一同「自然界怖ぇ」と学んだ夏の出来事でした。

著者プロフィール

大阪府在住。『僕が七不思議になったわけ』で第20回電撃小説大賞<金賞>受賞。プロフィール欄に堂々と書けるかっこいい経歴が欲しかったようで、「自分探し7級」を取得。

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