作家エッセイ
四季折々
メディアワークス文庫の作家が「季節」をテーマに綴るエッセイ。
今月は2017年1月より連続ドラマがスタートする大人気シリーズ
『探偵・日暮旅人』シリーズの著者・山口幸三郎先生がお贈りします。 ※メディアワークス文庫に挟まれている刊行情報チラシ「HeadLine」にも同じエッセイが載っています。
第21回 「レールを外れたときに見えてくるもの」三秋 縋

 どれだけ体調管理に気を配っていても、毎年十月になると必ず風邪を引いてしまいます。そのせいか、秋という言葉を聞いて僕が真っ先に思い出すのは、紅葉狩りでも月見団子でもハロウィンパレードでもなく、学校を休み自室のベッドでじっとしていた午後のことなのです。
 窓からのぞく空は厚い雲に覆われてどんよりと薄暗く、部屋の中はすべてがほんのりと青みがかって見え、時計の針の進みがやけに遅く感じられる、そんな午後。僕は世界から置いてけぼりにされたような心細さを感じつつも、同時に奇妙な解放感を覚えたものでした。本来学校で授業を受けているはずの時間にベッドで横になっていると、昨日までの自分にとってあらゆる価値の象徴であった学校という場所が、なんだかひどく馬鹿げた場所に感じられました。「何も学校だけが世界のすべてじゃないんだから、無理にあの場所の価値観に順応する必要なんてないんだ」という感覚は、僕のようにずれた子供にとっての救いでした。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、こういう客観的事実って、真面目に学校に通っている間は中々気づけないものです。ことによると、子供時代の僕は、定期的に風邪を引くことによってその感覚を維持しようとしていたのかもしれません。

*著者プロフィール*
1990年生まれ、岩手県出身の作家。ウェブ上で『げんふうけい』名義の小説も発表し、人気を博している。

*三秋 縋の作品*
・願いってのは、腹立たしいことに、 願うのをやめた頃に叶うものなんだ。
『スターティング・オーヴァー』

・いなくなる人のこと、好きになっても、 仕方ないんですけどね。
『三日間の幸福』

・自分で殺した女の子に恋をするなんて、 どうかしている。
『いたいのいたいの、とんでゆけ』

・暗闇に鳴り響く公衆電話のベル。受話器を取ってしまったその瞬間、不思議な夏が始まる。
『君が電話をかけていた場所』

・もう一度、あの恋に賭けてみようと思った。二ヶ月連続、上下巻構成で贈る三秋 縋の完全新作。
『僕が電話をかけていた場所』