作家・北川恵海公式サイト
『ちょっと今から仕事やめてくる』が映画化!!原作は大ヒット中で70万部突破!第21回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉受賞作家・北川恵海の公式サイトです。
『ヒーローズ(株)!!!』
「北川恵海 電子書籍フェア」が電撃文庫CLUBで開催中!

映画『ちょっと今から仕事やめてくる』公開を記念して、原作電子書籍がオトクに買える「北川恵海 電子書籍フェア」を電撃文庫CLUBで開催!


★期間限定で『ちょっと今から仕事やめてくる』『ヒーローズ(株)!!!』の電子書籍が20%ポイントバック!
★さらに!! 抽選で「福士蒼汰&工藤阿須加 直筆サイン入りプレスシート」をプレゼント!
★『ちょっと今から仕事やめてくる』の試し読み増量版を配信

詳しくは電撃文庫CLUBキャンペーン特設ページをご確認ください。
キャンペーン特設ページ http://dengekibunko.jp/club/201705-chotto/

◎関連サイト
電撃文庫公式サイト http://dengekibunko.jp/
電撃文庫CLUBとは? http://dengekibunko.jp/club/

新作『続・ヒーローズ(株)!!!』発売決定

大好評『ヒーローズ(株)!!!』の続編がいよいよ発売!
読み方は“ぞくヒーローズかぶしきがいしゃ”です。

978-4-04-892882-3

2017年425発売予定!

あらすじなどはこちらからどうぞ。
http://mwbunko.com/978-4-04-892882-3/

発売日には『ちょっと今から仕事やめてくる』や『ヒーローズ(株)!!!』と一緒に店頭に並んでいると思います。よろしくお願いします!

新作『続・ヒーローズ(株)!!!』最速立ち読み公開!

2017年425発売予定!
待望の新刊から冒頭部分を少しだけ、先行公開します!
※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

----------

 今年は例年に比べて暖かいらしい。庭の桜は早く咲いたのだろうか。
 見に行くつもりだったけど、タイミングを逃してしまった。
 あの人は今年も見ていたのだろうか、美しく咲く桜の花を。
 ねえ、あの庭の桜は、去年と同じようにきれいでしたか?


----------

 四月に入り急な花冷えが数日続いた。しかしその後は打って変わって暖かい気候に変わった。翌月になると空気はさらに暖かさを増し、ここ数日は雨が続いた。
 その雨の名残だろうか、今日は一段とむわっとした湿気が身体に纏わりついていた。
「ちょっと蒸すな……」
 顔をしかめながら長い階段を足早に上った。この古びた雑居ビルにエレベーターはない。あるのは階段と、力を込めるとボロリと崩れてしまいそうな頼りない手すりだけだ。そしてこのビル唯一のテナントである事務所は最上階の七階にある。
 埃をまき散らしながらリズムよく足を動かし続けること約十分。じわりと滲んだ汗が滴となった頃、すっかり見慣れた扉の前に辿り着いた。この今にも朽ちそうなビルには不釣り合いな、重厚な木目の扉。そこには『ヒーローズ(株)』と書かれた小さな看板がかかっている。
 少し上がった息を整えながら腕時計に目をやると、約束の時刻五分前だった。
「よし! 完璧」
 重い扉に手をかけると、ギィーーッと扉の軋む音が古い廊下に響いた。

「あー修司さん、遅いッスよお」
 ミヤビは俺を見るなり口を尖らせて言った。
「えっでも約束まではまだ……」
 俺の声を遮るようにミヤビが来客用のソファの方へと顎をしゃくった。
 大きな来客用ソファの背から、小さなおかっぱ頭がはみ出して見えた。
 俺は心の中で「しまった」と眉をひそめ客のもとへ急いだ。
「すみません、大変お待たせ致しました!」
 俺がソファの前に立つと、その客は飛び上がるように立ち上がった。
「あ、あの、す、すみません、わたし、早く来てしまって……。お、お忙しいそちらのご迷惑も考えずに、あの、本当に申し訳なく……」
 凄い勢いで頭を上下運動させ始めた彼女に驚きつつ、俺も「いえいえ! こちらこそ、来るのがギリギリになってしまって……」と、同じように頭をペコペコさせた。
 彼女の前に置かれた湯呑と茶菓子に手がつけられた形跡はなかった。
「ま、とりあえずそれ以上ヘドバン続けると二人とも倒れちゃうんでえ」
 新しいお茶を運んできたミヤビが苦笑いしながら俺たちをソファへと誘った。

「っで、依頼ってなんっスかあ?」
 当然のような顔で俺の横に腰かけたミヤビに、俺は小声で「なんでいるんだよ」と話しかけたが、見事に無視された。
 俺のお客さんなのに……
 腑に落ちないまま俺も負けじと彼女に話しかけた。
「では改めまして、自己紹介させていただきます。大変申し遅れました。わたくしヒーローズ株式会社の田中修司と申します」
 俺がソファに座ったまま名刺を差し出すと、彼女は再び勢いよく立ち上がってしまった。
「お、恐れ入ります。わ、わたくしのような者に、名刺など……。わ、わたくし名刺を持っておりませぬゆえ……」
 何時代の人だろうか。
 ミヤビがフッと吹き出したが、俺はなんとか微笑みのままで耐えた。
「大丈夫ですよ。あなたのご年齢で名刺を持っていらっしゃる方のほうが珍しいですので。気になさらないでください」
 俺は立ち上がって、セーラー風のワンピースである制服に身を包んだ彼女を再びソファに座らせると、一応ミヤビの紹介もつけ足した。
「こちらも同じく社員のミヤビです。身なりは怪しいですけど、怖くはないですのでご安心ください。僕のサポートをしてくれますので、以後お見知りおきを」
 サポートを強調しながらそう言うと、何が可笑しかったのか、ミヤビがケケッと珍妙な声で笑った。ちなみに今日のミヤビはピチピチのショッキングピンクのTシャツに革のジャンパー、ピチピチの革パンツ、そしてトレードマークの大きなドクロのネックレス。髪の色は所々グリーンに染まっていて、いつも以上にツンツンと立ち上がっていた。
 今日のテーマはロッカーかな。それにしても怪しい。怖い人でないのは本当だが、決して怪しくないとはいえない風貌だ。頼むから依頼人の前でそのジャンパーだけは脱がないでいて欲しい。
 ソファで身を縮こませている彼女に目をやると、明らかにミヤビから目を逸らしていた。取って食われるとでも思っているのかもしれない。
 やっぱりサポートは道野辺さんにお願いしたらよかった。
 俺はミヤビにバレないように小さく溜息をついた。

 小一時間ほどで依頼者は帰った。うちの面談時間としては短いほうだが仕方がない。ほとんど会話にならなかったのだ。
「修司さん、あの制服って桜ヶ丘女学院ッスよお。やっぱ清楚ッスねえ。可愛かったッスねえ」
 俺は依頼書を見返しながらミヤビの言葉を聞き流した。
 女子高生……まだ十七歳か。未成年者の依頼を受けるのは初めてだった。依頼者の年齢は問わないとは知っていたが、やはり未成年と契約するなら親の許可だって必要なはずだ。
「あんな娘いいッスよねえ。やっぱ女の子は清楚じゃないとね。自分の娘がギャルとかになったらもうオレ泣いちゃいますよお」
 それにしても、終始恐縮しっぱなしだった。自分で言うのもなんだが、これほど人畜無害な風貌の俺にあれだけ萎縮するようじゃあ、今後業務を続けることが困難だ。思春期の女の子だし、お嬢様女子校だし、男というだけで萎縮してしまうなら女性の社員と交代したほうがいいのかもしれない。


----------

「それにしてもここは穴場ですねえ」
 道野辺さんが狭い店内を見まわしながら言った。壁には一面に手書きのお勧めメニューが貼られている。
 この店は俺もついこの前、ミヤビに連れられて初めて知った『大漁』という名の小汚い居酒屋だ。とにかく魚が新鮮で安くて旨い。老紳士の佇まいもある道野辺さんにはそぐわない店かと思ったが、思いの外気に入ってもらえたようだ。ただ、高そうなオーダースーツをピシッと着こなして粗末な座布団の上に座っている彼は、やはり少し浮いているようにも見える。心なしかいつも威勢の良い店員さんも、道野辺さんに対しては少し上品に接している気がする。
「お待たせ致しましたあ。森伊蔵のロックでございまーす」
 そう言ってさっきの店員さんはにっこり笑って道野辺さんの前にグラスを置いた。いつもは「致しました」なんて言わないし、更に「ございます」なんてこの人の口から初めて聞いたぞ。
「焼酎の種類も豊富で素晴らしい」
 道野辺さんは焼き物の焼酎グラスを目の高さに持ち上げしげしげと眺めた。
「道野辺さんは焼酎派でしたっけ?」
「私は呑兵衛ですので、焼酎でもワインでも日本酒でも、なんでも美味しくいただきます」
 道野辺さんはグラスを口に運ぶと満足そうに「うむ」と頷いた。
「いいなあ。俺、ビールしか飲めなくて。やっぱ男は酒に詳しいほうがカッコいいですよね」
「詳しくともそうではなくとも、せっかくいただくなら美味しいと思うものを美味しくいただいたほうが良いかと思いますよ。料理も酒も、人の魂と動植物の命が込められているのですからね。贅沢なものです」
「そっかあ。そうですよね」
 俺は指で摘まんだシシャモを見つめて、先ほどよりはいくらか感謝を込めて、それを頭からかじった。やはりとても旨かった。
「しかし時としては何をいただくかよりも、誰といただくかのほうが重要な意味を持つ場合もあります。そういった意味では今日、修司くんといただく酒はとても美味しく感じられますよ」
 道野辺さんの言葉に俺は背中がムズムズし、少しだけ姿勢を正した。
「そんな……。なんか、すみません。変な愚痴ばっか言ってたのに」
 ここまで紳士に徹せられると、自分の器の小ささに申し訳なさすら感じてくる。
「若い人の愚痴にはパワーがあります。年寄りにとっては、それさえも輝かしく思えますから。聞いていて楽しいものなのです」
 道野辺さんはどこか遠くを見るように微笑んだ。
「年寄りってそんな……! 道野辺さんは年寄りではなく紳士です」
 本当は敬意を込めて、紳士の前に「老」をつけようか迷ったが、その敬意は伝わりにくそうに思えたのでやめておいた。
「それはそれは、有り難き幸せ」
 微笑みを浮かべたまま背筋を伸ばして焼酎グラスを口に運ぶ道野辺さんは、やっぱり凄くカッコいい紳士だった。

 店を出ると、薄い雲で濁った空にはポツポツと星が浮かんでいた。
 たっぷり三時間くだを巻いたにもかかわらず、時刻はまだ八時前だった。夕刻からゆっくり飲めるのはフレックス制の良いところだ。夜遅い時間だと道野辺さんは「年寄りなもので……」と、なかなか付き合ってくれない。
 道野辺さんと並んで軽い世間話などしながら駅を目指し歩いていると、斜め前の人物がふと目に入った。
 中年の男が一人、夜道に佇み気難しそうな顔をして携帯電話を覗き込んでいる。
 携帯操作に悩まされるお父さんか――――
 俺がそんなことを考えていると、その男が突如、満面の笑みを浮かべた。だらしないほどに目尻を下げ、そして、両手を広げその場にしゃがみ込んだ。
 あまりに突然だった彼の変化に、俺は驚いて立ち止まった。
 すると俺のすぐ横を、年端もいかない女児が走り抜けた。
 その子は迷わず、開かれた男の腕の中に、文字通り飛び込んだ。男はそれをしっかと受け止めた。同時にそこから二つの声が溢れ出した。細く甲高い子供の笑い声と、太く響く男の笑い声。
 今この瞬間、その男の腕の中こそが、世界で一番幸せな場所ではないかと思えるような美しい響きだった。
 少し遅れて俺の横を女性が通過した。その女性は「お父さん久しぶりー」と、男に声を掛けた。その女性の風貌は男とちっとも似ていなかったが、不思議なことにどこか男と似た空気を纏っていた。男はだらしなく崩れた笑顔のままで、女性に「おお、元気か」と短くも優しい言葉を投げかけた。
 男は女児の頭を撫でながらゆっくり立ち上がると、その幼い手を取り、まだまだ小さい歩幅に合わせるように、そっと足を踏み出した。
 それはまるで、雲の上を歩いているような足取りだった。
「孫と久しぶりの再会ですかね」
 俺は彼らに聞こえないよう小さめの声で、隣に立つ道野辺さんに話しかけた。
 道野辺さんは無言で眼鏡を持ち上げた。そして、右の目元を人さし指でそっと拭った。
「いやはや……最近めっきり涙もろくなって」
 少し驚いた俺に対し、「歳のせいですねえ」と取り繕うような笑みを見せた道野辺さんは、まるで俺の視線を避けるかのようにして足早に歩きだした。俺は慌てて道野辺さんのピンと伸びた背筋を追いかけた。


----------

 《続きは2017年4月25日発売の文庫をお楽しみに!》

1 / 3123
お知らせ

ページの先頭へ