コミカライズもされ、多くの読者から愛され続けている『0能者ミナト』シリーズ。その著者・葉山 透のインタビューをお送りします。『0能者ミナト』が出来上がるまでの制作秘話から、キャラクターへの想いなど、興味深いお話をうかがいました。

葉山 透インタビュー
――幅広い作風で活躍されていますが、『0能者ミナト』の構想の経緯を教えてください。
葉山 透(以下:葉山) 一巻のあとがきにあるとおり、ホラー小説から二転三転したのですが、三冊書き終えて振り返ってみると、今までの作品の傾向が反映されていると思います。
『ルーク&レイリア』は、中世的な世界観なのに魔法がない世界なので、トリックは現代の物理法則と同じ。『0能者ミナト』は現代なのに怪異が肯定されている世界観だけれど、主人公に能力がないので解決法は物理法則による。アプローチは逆ですが根本は同じです。ミステリーですね。
そこに『9S〈ナインエス〉』のような「この先どうする、どうなる?」というサスペンス要素とSFを加え、さらに一冊完結の話のような会話の楽しさを加える。つまり今までの作品のいいとこどり、です。
――個性的なキャラがたくさん出てくる本作。特に湊は個性的です。あとがきでも「受け入れらるかどうか心配」と書いていましたが、湊のようなキャラを、主人公にしようと思ったのはなぜですか?
葉山  最初は二枚目で無口で、でもやるときはやる、みたいな主人公だったんですが、なんかカッコ良すぎて私が感情移入できなくて。
 そうこうしているうちに、すごい嫌味で憎たらしい、本気でムカつくキャラクターが書きたくなりました。
 メディアワークス文庫ならではの「大人キャラ書くぞ」という目的にも合いましたし。大人というか、いい年という意味ですが、思春期なんてものはとうにすぎ、周囲から好かれる努力なんてしない、周囲にもそういう奴だと許容できる友人しか残っていない、それでぜんぜんかまわないというキャラクター。
 自分自身、いい年になっても、人からどう思われているか気になるし、普通はそうだと思うのです。なので「俺は他人なんかぜんぜん気にしない」と言い切れるキャラには憧れがあります。実際、友人になりたいかどうかは別ですが(笑)。
――特にお気に入りのキャラはいるのでしょうか?
葉山  沙耶とユウキです。理彩子と孝元はチョイ役なので気楽に書いてもそれなりに動くのですが、子供組は準主役なので、湊にくわれないように苦労します。いてもいなくてもかまわない「空気キャラ」にならないよう「エアサヤ禁止」「これじゃユウキクウキ」とか自分でダメだししながら書いています。
 手のかかる子ほどかわいい、の心理か、二人について考えることが多くなるので、愛着がわきます。
 あとは閑話に出てくるウェイトレスさん。三巻で出せなかったのが心残りです。
――お話が支持されている理由はどこにあると思いますか?
葉山  まずは一にも二にもkyoさんのイラストだと思います。いろいろな映画やドラマを観ていて、嫌な奴なのに好きになるのは、必ず俳優さんが魅力的なのだと気づきました。脚本がどんなに良くてもビジュアルのイメージはすべての印象を左右する。
 イラストも同じで、私が脚本兼監督だとするなら、イラストは俳優さんだと思います。
 湊はまさに「ハマリ役」ですね。
 二巻以降も、私が湊の毒舌やセクハラ発言、トンデモ展開をのびのびと書けるのは、kyoさんのすばらしいビジュアルイメージあってのことです。
 その次が内容でしょうか。社会人はゆっくり読書をする時間を持ちにくい、と自分自身の実感でもあるので、長編を一本書けるネタであっても、テンポの良さを心がけ、中編に収めるようにしています。
 作者的には長編一本書けるネタを半分にしてしまうのはすごくもったいないし大変なんですが、内容は濃くなりますし、そのかいがあって支持していただけているのかな、と思います。
――コミック版をご覧になったときの感想は?
葉山  キャラだけでなく背景も含め物語を細部までリアリティのある画面で表現してくださったことに驚きました。カッコイイ、カワイイ、ステキ、キレイと、グロテスク、ブキミ、キモチワルイ、コワイを両立していることはすごい技術だなと、最初はそこでした。
 次は、話が進んでいくにつれ、ネームがよく練られていることに思わずうなりました。先ほどの答えにもあったように、『ミナト』はテンポの良さを心がけているので、説明的な描写はもちろん、台詞や動作も小説の段階で極力削っています。そこからさらに漫画ならではのリズムの良さを引き出し、必要な情報を残すだけでも大変だと思うのに、コミカルなオリジナルシーンなどが加えられている。たぶん田倉トヲルさんは小説を書いても私より上手いんじゃないかと思います(笑)。
――今後はどんなお話を予定しているのでしょうか?
葉山  二巻のような形の話はまた頃合を見てやりたいですね。
 リクエストが多い大人組は、一話かぎりの再結成とか面白いかもしれません。
 担当氏との打ち合わせネタ帳には、「タワーリングインフェルノみたいな話」や「刑事コロンボみたいな話」等、いろいろ出ています。
 全部書くためにも、これからも『0能者ミナト』をよろしくお願いいたします!