デビュー3周年記念で、初の単行本『命の後で咲いた花』を刊行した綾崎 隼。『ノーブルチルドレンの残酷』がコミカライズ、『蒼空時雨』と『吐息雪色』が舞台化されるなど、メディアミックスも頻繁にされる人気作家だ。これまで数々の青春恋愛ストーリーを紡ぎ出している綾崎 隼に、それぞれの作品やキャラクターへの思いを語ってもらいました。

綾崎 隼インタビュー
――第16回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉受賞作で、デビュー作でもある『蒼空時雨』ですが、作品を思いついたきっかけなどありましたら、教えていただけますか?
綾崎 隼(以下:綾崎) 当時、新人賞に毎年落選していました。試行錯誤を繰り返す中で、それまで書いていたファンタジーやSFの世界を創る素養が自分にはないのではと気付き、現代ものに挑戦することにしました。最初に書いたのは演劇部の物語だったのですが、次は彼らが大人になった時の話を書いてみようと思い、高校時代に演劇部だった主人公たちの群像劇を考えました。
 現代ものなので世界設定を説明する必要がありませんし、主人公の仕事を自分と同じ塾講師にしたので、調べものが必要ということもなく、人間関係の描写に集中することが出来ました。「雨」をモチーフにしたのは、単純に僕が雨が好きだったからです。
 今でこそ当たり前のように恋の話を書いていますが、恋愛小説を書いたのは『蒼空時雨』が初めてでしたし、その後も書き続けることになるとは夢にも思っていませんでした。
――『蒼空時雨』のあと、『初恋彗星』『永遠虹路』『吐息雪色』と続き、「花鳥風月」シリーズが作り出されたわけですが、もともと、そういった構想を描いていたのでしょうか?
綾崎  『蒼空時雨』の執筆が本当に楽しかったので、次は「雪」をモチーフにしてミステリーを書いてみることにしました。『ノーブルチルドレン』の雛型になった小説で、結局、他社の新人賞で落選しているのですが、今と同じ吐季と緑葉の物語でした。その後、電撃大賞の第17回に応募すべく、『初恋彗星』を書き始めました。
 担当編集より16回の最終選考に残ったという連絡を頂いた時点で、「星」は8割方完成していて、舞原家を中心に据えた作品群のアイデアが自分の中で生まれていました。デビュー作にその後の作品の伏線が色々と張ってあるのは、投稿期間が長いのでアイデアを溜める時間が沢山あったからだと思います。
――『ノーブルチルドレンの残酷』『ノーブルチルドレンの告別』『ノーブルチルドレンの断罪』『ノーブルチルドレンの愛情』という4作の「ノーブルチルドレン」シリーズも、現代版ロミオとジュリエットの物語として人気を博しましたが、このシリーズの着想は、どこから得たのでしょうか?
綾崎  もとはミステリー系の新人賞へ応募するために書いたものでした。フーダニットの面白さを、と考えて書き始めたのですが、担当編集に読んでもらったところ、哀し過ぎて救いようがなく、読者が何を楽しめば良いか分からないという評価を頂きました。ミステリーの体裁をとっていても、書きたい本質は人間の感情ですし、その辺りで陰惨な事件と自分の作風がミスマッチだったのかもしれません。
 原稿自体は没になりましたが、その小説には舞原家と対立する千桜一族が本格的に登場していました。<現代のロミオとジュリエット>として設定した吐季と緑葉の関係は、担当編集にも興味深いと言って頂けたので、設定を練り直すことにしました。読み手としても書き手としても読み切り作品の方が好きなのですが、せっかく文庫で書いているのだから、いつか長編シリーズもやってみたいという思いがあり、学園ミステリーを書きたいという気持ちもあったので、その辺りを相談しながら、現在の形に落ち着きました。
 デビュー以来、恋愛小説ばかり発表していますが、現代ものを書き始める前は<友情>が主軸にある物語を書きたくて、そのためのドラマが生まれやすい世界を設定することが多かったように思います。そういう背景もあり、舞原吐季と琴弾麗羅の関係性は、自分でも気に入っていますし、設定を組み直した後の最大の見せ場となってくれた気がしています。
 ノーブルチルドレンは長編シリーズだったので、二巻以降はワカマツカオリさんの美麗なイラストをイメージしながら書くことが出来ました。それも新鮮でしたし、コミカライズやサイン会など、初めての体験を沢山運んできてくれたシリーズでもあります。
 結末まで細かくプロットを設計していたこともあり、早く吐季たち四人のエンディングを届けたくて、そういう想いが、若干、物語の進行速度を速めてしまったのかなと思っています。せっかく学園ミステリーなのだから、文化祭、体育祭、修学旅行など、もっと様々なシチュエーションを描いてみても面白かったのかなと今になれば思いますし、いつか短編集などの形で書けたらと考えています。
――「花鳥風月」シリーズ、「ノーブルチルドレン」シリーズ、どちらも魅力的な男女が数多く登場しますが、綾崎さんご自身で、思い入れの強い、あるいは印象に残っている登場人物は誰でしょうか? その理由も教えていただけますか?
綾崎  音楽が大好きなので、『永遠虹路』の主人公で、歌姫を目指していた舞原七虹に特に思い入れがあります。七虹に関しては、内面を描写しないという執筆上のルールがあったので、書いていても常に外から見ることになりますし、その辺りも気になってしまう要因の一つなのかもしれません。
 『初恋彗星』の紗雪にしても、『吐息雪色』の佳帆にしても、『ノーブルチルドレン』の緑葉にしても、振り返ってみると、意志の強いキャラクターは女性に多く、情けないキャラクターは男性陣に集中している気がします。零央にしても、葵依にしても、吐季にしても……それぞれカテゴリーは違いますがダメ男ですし……。僕自身もダメ人間ですし……。
 己の不甲斐なさを反省しつつ、今後は魅力的な男性主人公も描けるようになりたいです。
――秋赤音さんとのコラボプロジェクト小説『INNOCENT DESPERADO』も書かれています。非常にエキサイティングな作業だったと拝察しますが、何か楽しい思い出はありますか?
綾崎  常に音楽を聴きながら小説を書いているので、まさか音楽媒体そのものとコラボ出来るとは!と、興奮しました。秋赤音さんの声を聴いて、心が擦り切れそうになるような青春小説を書こうと思いました。このお話に関しては、言いたいことがほとんど最終話に集約してしまうのですが、ずっと描きたかった感情を、過不足なく最終話に込められたと思っています。
 大学生の頃は軽音楽部でバンドを組んでいました。しかし、大人になってからは、聴く以外の方法で音楽に触れることも難しくなっていましたし、コラボプロジェクトで真剣にロックと関われたことは、本当に素敵な体験でした。
――綾崎さんの作品はどれも、恋や青春がみずみずしく描かれている点が大きな魅力だと感じますが、巧妙な伏線や緻密な構成もまた見逃せない特徴です。かなり練り込んだ執筆作業に見えますが、作品を作る上で留意していることや、ご苦労なさる点があれば、教えていただけますか?
綾崎  デビュー直後に担当編集に言われ、強く印象に残っている言葉があります。「恋愛小説を書く作家は、主人公とヒロインに対する思い入れが強く、その二人をドラマティックに見せるためにストーリーを考えていくけれど、君はストーリーが先にあって、それからキャラクターを作るから、恋愛小説を書く作家としては珍しい」……というようなニュアンスの言葉でした。一般的にはミステリー小説の作り方だと思いますが、確かに結末やトリックから逆算して物語を考えることが多いです。
 同じジャンルの作家さんと執筆スタイルが異なるというのは武器にもなると思います。ただ、やはり上手くいかない部分もあって、どの作品も5、6回は編集と打ち合わせをして改稿しているのですが、修正のために頂くアドバイスは、キャラクターの性格や行動に関する部分が多いです。最初に決めたストーリーに沿って書いていくため、そのキャラクターの言動として不自然な場面が出てくる場合があり、そういったシーンは確実に担当編集に指摘されます。その辺りは毎回、勉強させて頂いているというか、完全に担当編集に頼りきっている部分もあって……。三年間で得手不得手も少しずつ見えてきたのですが、幾つかの苦手な部分を、いつも補ってもらっていると感じています。
 改稿のためのアドバイスは、言い方を悪くすれば<ダメ出し>でもあるわけですが、執筆の中で改稿・推敲をしている時が一番楽しいので、苦になったことはありません。作家さんのお友達と話していても、珍しいタイプのようですが、締め切りさえなければ、いつまででも原稿を直し続けていたいです。
――デビュー3周年記念として、初の単行本『命の後で咲いた花』が1月25日に発売されます。やはり特別な想いは、ありますか? また『命の後で咲いた花』の読みどころなども、教えていただけると嬉しいです。
綾崎  もともと単行本という形に対する憧れが強かったので、いつもの一冊という感覚ではありません。自分にとっても、きっと特別な本になると感じています。
 これまで九冊の本を出させて頂きましたが、すべてが青春小説です。異なる作風にも挑戦したいと思っていますし、具体的なビジョンもあるのですが、単行本で発売されることで、初めて自分の本に触れて下さる方もいるのではと予想しています。それで、奇をてらうのではなく、胸を張って、今まで通りの作風で描こうと思いました。
 タイトルから推測される通り、今回は「命」と向き合う話です。
 いわゆる<不治の病もの>にカテゴライズされる作品は、読み手として、どうしても好きになれないのですが、今回、自分がそれを書くにあたり、数十作、同じジャンルの作品をチェックしました。そして、これしかあり得ないという想いと覚悟で、物語を紡がせて頂きました。
 一人でも多くの方に読んで頂き、是でも、否でも、強く何かを感じて頂けたら嬉しいです。
――今後、どのような作品を構想しているのか、チラッと教えていただけないでしょうか?
綾崎  二年以上、期間が空いてしまいましたが、『花鳥風月シリーズ』の新作を書いています。別の作品を書いている間に、『蒼空時雨』、『吐息雪色』と、二度も本当に素敵な舞台を作って頂きました。もちろん感謝の気持ちもありますし、観劇したことで得たモチベーションもあります。それを新しい物語の形で発表したいです。
 また、完結した『ノーブルチルドレンシリーズ』ですが、本編で描けなかったシーンを、短編の形で発表出来たらとも考えています。
 2013年は上記を主軸に据えながら、昨年、沖縄でプロットを作った<離島もの>も書けたらと思っています。書きたいお話が沢山あります。継続的に発表の場を頂けるのは、とても幸せなことです。
――最後にメッセージをいただければ幸いです。
綾崎  昨年は大怪我のせいで『ノーブルチルドレン』最終巻の発売が、予定より二ヶ月遅れるという事件がありました。思い出しただけで具合が悪くなるのですが、素敵なことも沢山あった一年間でした。サイン会で初めて読者の皆様とお会いすることが出来ましたし、秋赤音さんとのコラボやノーブルのコミカライズ、『吐息雪色』の舞台など、幸せな経験をさせて頂きました。
 デビューした頃に比べ、随分と沢山の方に手に取って頂けるようになったと感じています。これからも読み続けたいと思ってもらえるよう、精力的に執筆していきますので、どうぞ今後ともよろしくお願い致します。

 ……蛇足になりますが。
 サッカーのエッセイを書きたいのですが、アスキー・メディアワークスさんにサッカー雑誌を刊行する予定はないのでしょうか? 当方、Jリーグとプレミアリーグを十年間、見続けております。万全の態勢でオファー、お待ちしております。