傍若無人・容姿端麗な四十四番資料室の妖怪博士・絶対城が活躍する伝奇ミステリ『絶対城先輩の妖怪学講座』シリーズ。
コミカライズも決定し、ますます勢いにのる本作について、著者の峰守ひろかずに直撃インタビューを敢行! 作品の魅力、制作裏話、キャラクターへの想いなどについて語ってもらったぞ。
また、妖怪好きな著者による妖怪好き読者のための「妖怪一問一答」も掲載!!

峰守ひろかずインタビュー
――電撃文庫で妖怪ものの作品『ほうかご百物語』を刊行しておられますが、メディアワークス文庫で妖怪を扱った作品を書くということで、意識した部分などありますか。
峰守ひろかず(以下:峰守)  主人公の年齢を高校生から大学生に上げたくらいで、別段意識していることはありません。土台となる設定が百八十度違うので、意識しなくても別の話になりますし。ただ、『ほうかご百物語』を書いていた時と同様、先人や研究者ならびに妖怪の皆様へのリスペクトは常に意識しています。
――独特の空気感を持っている主人公の絶対城につきまして、誕生した経緯や峰守さんが考える魅力について教えてください。
峰守  井上円了の妖怪学をベースにしたトンデモ伝奇ものは以前から書きたくて、数年前から何度かプロットを作っていました。最初の案では、絶対城のポジションのキャラクターが女性で、それに付き従う主人公が男子であり、その関係性をひっくり返して生まれたのが、今の絶対城の原型だった……ような気がします。うろ覚えで申し訳ありません。
 絶対城のキャラクターについては、あまり捻ってはいません。有能で自分勝手で独善的な探偵役という、シャーロック・ホームズ以来の王道です。ただ、完璧すぎると面白みが出ないので、弱みや意外性もちょくちょく出すようにしています。「傍若無人に見えて最低限の良識はある」「意外に打たれ弱い」「基本的に頼れるんだけど、たまにほっとけない時がある」という感じですね。親しい相手の前ではそういった面をたまに見せており、そのへんのギャップが魅力に繋がっているのかなと思います。やりすぎると、単なる不器用ないい人になってしまうので、さじ加減が難しいですが。
 絶対城の魅力については、水口十さんのイラストの威力が何より大きいと思います。不敵な妖怪学徒という第一印象をあの絵が伝えてくれるからこそ、文章でそれをブーストしたり、ギャップを狙ったりできるわけで。私自身、あの絵を見て「こういう奴だったのか」と知った(と言うか、腑に落ちた)感がありますし、水口さんには本当に感謝しています。
――絶対城以外にも魅力的な登場人物が登場しますが、各キャラについて教えてください。
峰守  絶対城以外のキャラは、絶対城という主人公を中心に逆算して生まれたものです。ヒロイン兼語り手の礼音は、ホームズのポジションの絶対城に対するワトソンですね。単なる聞き手になってしまうと目立たないので、絶対城とは別の役割を与えようということになり、合気道が得意な格闘女子になりました。スレンダーでショートで長身なのは作者の好みです(きっぱりと)。
 この「絶対城が推理して礼音が戦う」という役割分担は上手くいったとは思うんですが、巻が進むにつれて礼音が絶対城のポ●モンみたいな扱いになってきて(クライマックスで「行け!」って言われて暴れるので)、不憫なヒロインです。それでもちゃんとヒロインを続けられているのは、ひとえに水口さんのイラストが可愛いからです。
 もう一人のレギュラーである杵松は、絶対城の友人かつ裏方であり、ぶっちゃけて言えば絶対城の個性を印象付けるためのキャラです。白衣で短髪で明るくて優しい杵松とセットにすることで、逆属性の絶対城が際立つという仕組みです。最初はそれ以上の役割を振るつもりもなかったんですが、シリーズが続く中で勝手に個性が出てきてしまいました。
――毎巻四~五体の妖怪が登場しておりますが、妖怪のネタは普段どのように集めているのでしょうか。
峰守  妖怪ポストでネタが届きます。嘘です。ひたすら本を読むだけです。考えたストーリー展開に即する妖怪を探すこともあれば、あてもなく読んでいた本で見つけたネタからストーリーを考えることもあります。読んだ時はピンと来なかったネタが後で使えることもありますので、少しでも面白みを感じたら、メモしたり付箋を貼ったりしています。
――ついにコミックになるということですが、コミカライズについての感想を教えて下さい。
峰守  こうなると知っていたなら一巻一章の冒頭からド派手なアクションシーンか巨大怪獣を出しておいたのに、と思いました。
 というのはさておき、嬉しいです。それに尽きます。主要キャラを炬太郎さんの端正な絵で見られるのも嬉しいですが、作者としては脇役にも思い入れがありますので、モブキャラをビジュアルで見られるのがありがたいです。
――メディアワークス文庫公式HPをご覧の皆様に一言お願いいたします。
峰守  守られ系探偵偏屈男子と戦闘特化型ボーイッシュ女子という、ヒーローとヒロインの役割が入れ違った感のあるコンビがお送りする伝奇ものです。平たく言えば「あの妖怪は実は○○だったんだ!」「な、なんですってー!」という話です。○○の部分にはかなりアレな真相が入りますので、広い心で読んでいただければ幸いです。
妖怪一問一答!!
一番好きな妖怪は何ですか?
峰守  そもそも妖怪というのは「怪しいものごと」全般を示す総称であり、多種多様な概念が含まれるため、一番好きとか嫌いとか決められるものではなく(めんどくさい話が延々続くので省略)
 えーと「九尾の狐」です。毒とか吐けるのに、わざわざ権力者に取り入って国を亡ぼそうとするあたりの知的っぷりがグッときます。彼女の尻尾を拝んだら電撃小説大賞を受賞できたこともあり(詳しくは電撃文庫『ほうかご百物語あんこーる』あとがきを参照ください)、今でも敬っています。次点でイタチ。
一番怖い妖怪は何ですか?
峰守  そもそも妖怪というのは(以下同文)「禰々子(ねねこ)河童」です。河童の女親分であり、そこまで怖い妖怪でもないのですが、水木しげる先生の妖怪図鑑に載ってた彼女の絵が怖すぎて、四半世紀近くのトラウマです。しかし、本当に怖いのは妖怪を生み出してしまう人間の心なのではないでしょうか(お約束)。
一番最初に知った妖怪は何ですか?
峰守  そもそも(以下同文)最初に知ったというか、記憶に残っているのは「つらら女」。小学校入学前に愛読していた水木しげる先生の本に載っていたのですが、ビジュアルが強烈でよく覚えています。これまた軽いトラウマです。
一番カッコイイ(可愛い)と思う妖怪は何ですか?
峰守  そ(以下同文)えーと、まず伝わらないと思うんですが、「筑前国宗像郡化物退治図絵」に描かれた化け狸の可愛さは宇宙一だと思います。ムクムクしたキュートな風貌! 「がおー」って書き文字が似合いそうなポーズ!
友達にするならどの妖怪ですか?
峰守  キュウモウ狸ですかね。別段ありがたくもなく、人を害することもない、人畜無害な化け狸です。こういうのとだらだら呑みたいな、と思ったら人生に疲れてる証拠です。
結婚するならどの妖怪ですか?
峰守  狐女房。正体がバレても追い出したりしませんし、むしろちょくちょく素の姿に戻っていただいて構いませんので是非。
実際に遭遇したことがある(と思う)妖怪はいますか?
峰守  いません。そしてなるべく今後も遭遇したくありません。怖がりなので!
もし妖怪になれるならどの妖怪になりますか?
峰守  人を殺したり呪ったりするのは嫌ですし、自然現象みたいなものもつまらなそうですし、強いて挙げるなら、えーと……「ちんちろり」? こういう存在意義のさっぱり分からないモノが、何となく存在を許される世界であってほしいと願います。
妖怪図鑑
絶対城が謎を解き明かす
妖怪たちの一部を紹介するぞ!

べとべとさん 奈良県に伝わる妖怪。夜道を歩いている時、後をつける足音が聞こえてくるという怪異。振り返っても姿は見えないが、道の片隅に寄り、「べとべとさん、先へお越し」と言うと、足音は先へ抜けて行くという。

幽霊 怨みを残して死んだ人間の霊魂が、生前の人格や記憶、容姿を保ったまま現世に現れたものをいう。足がなく、白の経帷子を身に纏い、額に三角紙を付けた姿が一般的。

付喪神(つくもがみ) 九十九神とも書く。長く使用された器物が化けた妖怪の総称。古い道具は百年を経て化け、悪事を働くようになるので、その前に処分しなければならないとされた。粗末にされたり、乱暴に扱われた道具は付喪神になって祟るとも言われる。

馬鬼(うまおに) 愛媛県などに伝わる妖怪。城主とともに事故で死んだ白馬の霊が化けたもので、目は赤く輝き、口は大きく裂け、巨大なたてがみを持つ。人を襲う危険な妖怪だったが、六地蔵を建てて供養の法会を営むと、現れなくなったという。

ぬらりひょん 和歌山県などに伝わる。小柄な体と、それに見合わないほど大きく、かつ前後に長い頭を持った老人の姿で描かれる。日暮れ時などに人家の近くにふらりと現れるとされているが、人に害を加えることはない。

覚(さとり) 全国各地に伝わる。山中に住む人間型の妖怪で、人の心を読みとることができる。木こりや猟師を食おうとするが、予期せぬ出来事に驚いて逃げ去るという内容の伝承が各地に残っている。一方、とくに危険なものではないと伝えている地域も多い。山人ともいう。