ふしぎ荘で夕食を ~幽霊、ときどき、カレーライス~

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プロローグ

小さな足音だけが、かすかに響いている。

生地山神社は、美しい稜線を描く生地山の一番低い山頂に建てられている。緩やかな石段は下から見るよりも長く、いつまでも頂上に辿り着かないような感覚に、みな不安を覚えるという。
その石段を登るのは、十歳くらいの女の子だった。彼女も例に漏れず、終わる兆しのない石段に、不安げな表情を浮かべていた。――いや、それは単なる私の思い込みで、彼女は心細い思いをしながら、ここまでやってきたのかもしれない。
小さな手のひらには、十円玉が握られている。少女は息を切らしながら、やっと石段を登りきって、まっすぐに境内に向かう。
賽銭箱に十円玉を投げ入れると、彼女は手を合わせた。
「おじいちゃんのアパートに、人が入りますように。おじいちゃんとおばあちゃんに、嫌われませんように」
彼女はそこで一度言葉を切り、迷うように目を開けた。それから、改めて手を合わせ、震える声で、こう続けた。
「お母さんが、迎えに来てくれますように」
見慣れた生地山の境内から、私は町を見下ろした。大学通りを一本入ると、旧街道に古い民家が並ぶ。彼女が住む家のことを、私は知っている。
この子が、最近その家に引き取られたということも。